矢印が、人に向かうまで
会社員、英語講師、Web集客。仕事も業界も違う3人が、毎月スピーチとプレゼンを持ち寄り、本気のフィードバックを交わしています。例会の録音から、「伝える力」と「聴く力」をめぐる議論を抜き出しました。
※2026年の例会の録音をもとに、発言の趣旨を変えない範囲で話し言葉を整えて編集しています。
組み込みソフトウェア会社の営業。エンジニア時代から約30年、ものづくりの現場に向き合う。英語スピーチクラブにも参加。
英語スクール主宰。米軍基地や米国大使館で約13年働き、独立後はのべ200人以上を指導。日本語教師でもある。
SEO・AI検索対策によるWeb集客を支援。工務店やリフォーム会社の経営者と向き合う。じぶんプレイスのサイトも手がける。
「無駄がない」の、その先へ
渡部さんが、建築・リフォーム会社の経営者を想定して、SEOとAI検索対策のメリットを説明するプレゼンに挑戦。今回のテーマは「スライドを使わずに、話だけでどこまでイメージを伝えられるか」。
内容は具体例があって、聞いている人が画像を思い浮かべられる。そのうえで話し方について言うと、とにかく無駄な言葉がないんですよね。僕はどうしても不安になって、ちょこちょこ言葉を入れ込んじゃう。渡部さんは一つひとつの文に無駄がないのに、足りないこともない。端的で、的確。
「〜だと思います」みたいな、もごもごした言い方がないから、文がバシッと終わる。聞いていて気持ちいいし、説得力があります。
僕に刺さったのは、どんなにいいサイトを作っても、見つけてもらえなければ意味がない、というところです。今はGoogleだけじゃなくて、AIにどう見つけてもらうか。そこから始めないと、せっかく作ったものが無駄になってしまう。
自分では、聞き手に「なるほど」と思わせるポイントが弱いと感じていました。話に引き込める点を、もっといくつも作れたんじゃないかと。
それは声の抑揚、ボーカルバラエティの話だと思います。渡部さんは全部をあまりにフラットに言っちゃうから、もったいない。「一番大事なのは、何と言ってもどう知られるかなんです」というところだけ、もったいぶって大げさにやっていい。他は今のままでいいんです。そこだけ変えれば、全然変わると思います。
もう一つ、対話っぽくするのもありかもしれません。冒頭で「社長、これってどうですかね」と問いかける。相手は自然と答えるようになって、話に引き込まれるんです。
フラットに話していると、長く感じませんか?
いや、長くは感じないです。むしろスーッと空気が流れて、引き込まれる。
一つひとつの文に無駄がないのに、足りないこともない。
山内自分の強みはそのまま残して、「ここだけは強調する」一点を決めているか。自分で弱点だと思っていることは、聞き手にも同じように見えているか。
熱は、目線と間で伝わる
金子さんは、自動車や電子機器メーカーの部長クラスに向けた会社紹介を、毎回アップデートしてきました。「もっと熱く語っていい」という前回のフィードバックを受けて、愛用していたウォークマンや、テレビが「ただの画面」になってしまった話を盛り込みました。
一言で言うと、わかりやすい。スライドと語りのバランスの勝利だと思います。もともと金子さんの話は論理的で、構造的。感情をあらわにして話すのは得意じゃないと言っていたけれど、「断じてNOです」のところで、それがちゃんと出てきた。出しすぎず、出さなさすぎず。
「断じてNO」で、説明から一気に金子さんの感情に切り替わりましたよね。普段の金子さんを知っているから、熱の入れ方のスイッチが変わった瞬間がはっきりわかった。前回と比べても、熱は2倍くらい上がっていると思います。
ただ、もったいないと思ったのは、その瞬間も目線がスライドのままだったこと。金子さんを知らない人は、スライドを見たまま流れてしまう。あそこで聞き手のほうを見てもらえたら、めちゃめちゃかっこいいと思うんです。
熱く語るところで、一回画面を切って、聞き手に顔を向ける。資料を見させない瞬間を、プレゼンの中に作れないかなと。
僕は以前、持ち時間がたった25秒のプレゼンの場で、4秒も5秒も何も話さない人に出会って驚いたんです。そこから、間を取る練習を始めました。最初は怖かったですよ。でも、言葉で埋めようとしても誰も聞いていない、間で一気に引き寄せるんだ、とわかってからは、間が自分の武器になった。金子さんにはきっとチャレンジングなことだけど、やってみたら絶対につかめるものがあると思います。
日本のプレゼンは、スライドを字で埋めて、それを読むだけということが多い。それなら資料を配ればいいんです。プレゼンの主役は、スライドではなくプレゼンターという人間。スライドに使われるのではなく、自分がスライドを使って話す。
刺さるプレゼンには、「この人が言うなら」という土台があるんですよね。難しい話をする前に、まず信頼してもらう。そのほうが先なんだと思います。
スライドに使われるのではなく、自分がスライドを使って話す。
山内一番伝えたい瞬間に、自分の目はどこを見ているか。沈黙を言葉で埋めようとしていないか。
憧れているのに、許せない
別の回、金子さんは「今日は論理よりも、思うがままを熱く話す」と決め、手元のメモを一切読まずに会社紹介をしました。
まとまっていて、一つひとつが入ってきます。ただ、この10分で何を一番訴えたいのか、その軸が僕には見えなかったんです。
本当は、日本のものづくりの危機を一緒に乗り越えたい、日本の良さがわかる開発を一緒にやりましょう、と言いたいんです。でも、それが出てこない。言われて、はっと気づきました。自分の中では前提になっていて、言わなくなっちゃうんですね。
全体の熱の入り方は、すごかったですよ。
普段は本当に淡々としているので、これでもだいぶチャレンジしているんです。渡部さんは、「私に任せてください」を、言葉じゃなくて体で語っている感じがしますよね。
そこが自分の強みだと思っています。最後の最後に「絶対大丈夫ですから」と、ドストレートに言うんです。それで決めてくださるお客さんが多い。
金子さんにも、一つやってほしいことがあるんです。説明の途中、どこでもいいので「一つだけ、皆さんに聞いてほしいことがあるんです」と言って、雰囲気をガラッと変えて、個人的な話をしてみる。その一点だけなら、全然うさんくさくないと思います。金子さんの人間味をトンと出すだけで、めちゃめちゃ変わりますよ。
渡部さんみたいな話し方には、憧れがあるんです。でも、自分には絶対にできないとも思う。極端に言えば、そういうことをやる自分が許せない。憧れているのに、許せない。矛盾していて、そこが難しいんです。演技っぽいことはやりたくない、という気持ちもあって。
すごくわかります。僕も「絶対こうしましょう」とは言い切れないタイプなので、渡部さんはすごいなと思う。
でも、だからこそこの場があるんだと思うんです。本番でいきなりやるのは難しい。ここには完成品を持ってくるんじゃなくて、いろいろ試しに来ればいい。僕も英語のスピーチクラブでは、いいものをやろうとは思っていなくて、毎回何かを試しています。
ここには完成品を持ってくるんじゃなくて、いろいろ試しに来ればいい。
山内自分の中で「前提」になってしまい、口に出さなくなった一番大事なことは何か。「自分らしくない」と避けている話し方を、試せる場所を持っているか。
他人のプレゼンを演じると、自分が見える
8月の例会では、飲み会での一言から生まれた企画「他の人のプレゼンをやってみる」に初めて挑戦しました。渡部さんは山内さんが英語スクールを始めた思いを、山内さんは渡部さんのAI集客の提案と、金子さんの会社紹介を、それぞれ本人になりきって発表しました。
ちょっと涙をこらえました。人にやってもらうと、こうなるんですね。鳥肌が立ちました。
僕は良くも悪くも熱くなって、いっぱい話してしまう。それが良いときもあれば、余計なときもある。渡部さんのは全部が絶妙なんですよね。無駄もないし、足りないところもない。キーワードがバシッとくる。
最後は、メソッドの説明から山内さんという「人」に目を向けて締めくくりたかったんです。「最後は俺で決めてくれ」と。大手にはない、個人だからこそできる向き合い方。それが山内さんの一番の強みだと思うので。
自分のことの一番真ん中って、自分では言うのが恥ずかしいんですよね。でも、お客さんにとってはそこにパワーがある。
まさにそうなんです。僕も、自分で適度に言おうとすると、全然言えなかった。
続いて、山内さんが渡部さんのAI集客の提案を、自分なりの組み立てで発表しました。
僕はずっとこの仕事をしているから、「これくらいはわかるでしょ」と説明を端折っていたんです。山内さんは、SEOやホームページの説明を、ちゃんとやってくれた。すごく新鮮で、初心に戻る気づきがありました。
渡部さんの素晴らしいスピーチに、少しは恩返しができたようでうれしいです。
ビジネス交流会でも、自分のプレゼンに意見をもらう機会はあります。でもここでは、自分のプレゼンを他の人が話す。その面白さ、深さ、新しさですよね。業界を知らないからこそ、迷いなく言えるところもあるんです。
できる人の、コアの一番濃いところだけが抽出されるんですよね。
この会のいいところは、プレゼンが終わってから、こうして話し合うところにもあると思います。論評のための論評になっていない。リアルだから、すごく学びになる。
「これくらいはわかるでしょ」と、説明を端折っていたんです。
渡部自分の話を、別の誰かが話したらどうなるか。慣れすぎて省いている説明はないか。
枠の外から、真ん中を突かれる
金子さんの会社紹介へのフィードバックが一段落したところで、話題は「フィードバックそのもの」に移りました。
僕自身がそういう指摘を求めているから、つい踏み込んだフィードバックをしてしまうんです。でも、それを求めていない人に言ったらどうなんだろう、とも思っていて。
人によっては、それで初めて目が開くかもしれないですよね。
フィードバックをもらうとき、自分では「この辺を指摘してほしい」と枠を決めているんですよ。でも、だいたい全然違うところを指摘される。自分が意識もしていなかった領域です。それで、自分の枠が広がっていく感じがある。だから、自分が求めていたところに当たるかどうかなんて、むしろ考えなくていいと思うんです。
渡部さんのフィードバックは、枠の外から来るのに、一気に真ん中を攻めてくるんです。今までなら絶対に言われない領域を、ズバッと。分析的で緻密なのに、一瞬で入ってくる。そういう人は、なかなかいないですよ。
自分が意識もしていなかったところを指摘される。それで、自分の枠が広がっていく。
金子フィードバックをもらうとき、「ここを見てほしい」という自分の枠に閉じこもっていないか。
自分のことが、一番わからない
渡部さんが、このサイトの原案を見せた回。「来てほしいのは、緊張を克服したい人より、伝える力と聴く力を追求したい人ではないか」という問いかけから、議論は「じぶんプレイスとは何か」へ広がりました。
緊張して頭が真っ白になる、人前で話すのが苦手、という人に向けた広告はたくさんあって、集客としてはそれが一番いいのかもしれません。でも僕は、伝える力・聴く力を追求したくて来てくれる人のほうが、話がかみ合うんじゃないかと思っていて。
スピーチクラブには、スピーチは何分、論評はこう、という型がありますよね。それを全部取っ払って、本質だけを入れて話す。そして本気でフィードバックする。それだけでいいと思うんです。
自分のことなのに、自分が一番わからない。だからこそ、自分が本当に思っていること、伝えたいことを、お客さんにでも誰にでも伝えられるようになる。自分が見つかっていく場所。僕は「じぶんプレイス」をそう解釈しています。
編集者の視点ですよね。自分のことなのに、自分ではわからない。それがわかるようになって、自分をプロデュースできるようになる場所。他の人へのフィードバックも、鏡で自分を見るようなものだと思います。相手に「こうしたほうがいい」と言っているところは、実は自分が気にしているところだったりするので。
自分のプロデュース力、そうですね。スピーチもする、フィードバックも受ける。ゴリゴリの切磋琢磨で磨かれていく。
正直に言うと、僕は話すのは得意なほうだと思っています。それでも悩みがある。ど真ん中の自分を出そうとすると、自分ばかり話して、相手に刺さらない。それが届くようになったら、売り上げだって一気に変わるかもしれない。だから僕にとっても、まだまだ必要な場なんです。
「会社でもこんなこと言われたことないよ」というくらいのことを、出会って数回の人が、ここまで考えて言ってくれる。ありがたいな、という感覚を味わってほしいんです。
失礼がないから、尊敬と尊重があるから、そうなれるんですよね。
それに、緊張しないようにする必要はないと思うんです。どうしても伝えたいことがあれば、震えながらでも話せる。そして、それに人は感動してくれるんですよ。
自分のことなのに、自分が一番わからない。だから、自分が見つかっていく場所。
山内あなたが本当に伝えたいことは何か。それを、震えながらでも話したい相手はいるか。
矢印が、人に向かうまで
会をどう広げていくか。人が増えたときの運営や、ビジネスとの距離感を話し合う中で、渡部さんが、この会の根っこにあるものを言葉にしました。
ビジネスマッチングのコミュニティになってはダメだと思うんです。僕は山内さんに誘ってもらって、最初は半信半疑で「ガチフィードバック」をやってみました。そうしたら、このフィードバックには、めちゃめちゃ可能性があると感じたんです。
僕の勝手な理想かもしれないですけど、フィードバックをやり続けると、最終的には「相手のためになる」ところに行き着くと思うんです。最初は、矢印が自分に向いている。でも何回もやっていくうちに、矢印が自然と人に向かうようになる。
それは理想だし、本質ですね。
自分のためのフィードバックをしちゃいけない。本当に相手のためになることを、お互いに突き詰めていく。それが、この会の根幹になると思います。
ここに入っていることで、人とのつながりが生まれて、新しい出会いがあって、自分の成長にもなる。個人事業主でも、会社員でも、営業の方でもいい。普段は社長さんと話す機会がない人もいるし、英語の先生と話したことがない人もいる。「こんな人がいるんだ、面白いな」と思えるコミュニティにしたいです。
最初は、矢印が自分に向いている。でも何回もやるうちに、矢印が自然と人に向かうようになる。
渡部あなたのフィードバックの矢印は、いま誰に向いているか。
次は、あなたの話を聴かせてください。
じぶんプレイスには、決まった型も講師もいません。仕事で使うプレゼンでも、話してみたいテーマでもかまいません。持ち寄った話に、肩書きを外した仲間が、良い点と改善点を率直に返します。
話す人が磨かれ、フィードバックする人も磨かれる。その往復の中で、自分の伝え方と、自分自身に出会っていく場所です。
- 日時
- 毎月第4金曜日 19:00〜21:00
- 会場
- 武蔵野プレイス(武蔵野市境南町2-3-18/武蔵境駅南口から徒歩1分)
- 見学
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